初速のみで弾道を推測してはいけない話
はじめに
Twitterお船界隈だと常識と化してる気がするのでこれを書く意義が薄いんだけど、まあ筆者の自己満足ということで許してほしい。ついでに文体も口語気味なので許せ
ほんへ
港画面で砲弾の初速を確認できるのはみなさんご存知だろうか。初速の数値を見ることで、その砲弾がどれくらいの速さで撃ち出されるのかがわかるのだが、「こいつは初速 960m/s だから弾道はいいに違いない」といった感じで初速のみで弾道を推測するプレイヤーをたまに見かけることがある。自分もかつてはそうだった。これは、いけない。
すべての砲弾には減速のしやすさが設定されている。それには口径、砲弾重量、抗力係数が絡んでいて、それらの数値さえ知っていればおおまかな弾道の性格がわかる。ところが、抗力係数に関しては隠しパラメータとなっているので港画面や公式サイトを漁ったところで出てくることはない。残念でした。
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…どうしても知りたい?しっかりとこのあとの文章を読めばいいことがあるかも( ◠‿◠ )
要するに、初速があるからといって、その他の数値がクソ雑魚だった場合はレーザービーム砲にはならないというわけだ。
その一例が Königsberg や Nürnberg の 150mm 砲で、初速はクッソ速いはずなのに遠距離になるとダレまくるので高ティアでは辛いという評価になるのである。
逆もまたしかり。そこまで初速はないのにその他の数値が優秀なおかげで遠距離でも当てやすい砲も存在する。
敷島の 510mm 砲は初速僅か 765m/s なのにも関わらず、イかれてる砲弾重量のおかげでティア10戦艦の中でも遠距離での着弾時間がはやい。
これ以降は有識者によるもっと詳しい話になります。普通に面白いので、ここまで理解できた方々は読むことをおすすめします。知らんけど。
砲弾の空気抵抗と隠しパラメータ
文責: わらび餅(@warabi99_wows)
wows では砲弾は速度の 2 乗に比例する空気抵抗の影響を受けて飛翔中に減速していきます. 本項では隠しパラメータを含めて空気抵抗に関係するデータすべてを説明していきたいと思います.
先ほど説明があったように, 弾道に関するパラメータには港画面で確認できる初速のほか, 砲弾重量, 口径, 抗力係数という 3 つの隠しパラメータが関与します. wows において 2 種類の砲弾の弾道が完全に一致するためには, 初速が等しく, 空気抵抗に関係する係数が一致する必要があります. この係数は初速以外の 3 つのパラメータから簡単に計算できます.
空気抵抗に関する係数
砲弾重量 m, 口径 R, 抗力係数 Cd から以下の式で算出されます.
Cd・R^2 / m
この用語のネーミングは私によるものであり, 抗力係数と区別できればどのように呼んでいただいても構いません.
この式の由来を簡単に説明すると, まず空気抵抗は砲弾の断面積に比例して大きくなります. したがって口径 R の2乗に比例するわけです. また空気抵抗は力であり, これを質量で割ったものが加速度になります. したがって, 砲弾重量 m で割ります.
式に慣れるために, 上記の係数と口径との関係を考えてみましょう. 式のなかに口径 R があらわに含まれているほか, 砲弾重量 m にも影響します. ここで砲弾が相似形であると仮定すると, 砲弾重量は口径の 3 乗に比例します. したがって, 上記の係数は口径の 1 乗に反比例することになります. 初速が等しければ, 口径の大きな戦艦砲のほうが減速しづらく, とりわけ遠距離での着弾時間に差が出ます.
断面積あたりの質量という点でいえば, 米 16 inch SHS などの重量砲弾は空気抵抗を受けづらいことになります. しかし, ゲーム内では残る 1 つのパラメータである抗力係数の影響もあるため, 早合点は禁物です.
抗力係数
もっとも謎めいたパラメータである抗力係数は, 大まかな傾向として 0.30~0.35 の範囲の値を取ります. 以下に巡洋艦の実例になりますが, 特に小さな抗力係数(0.3 未満)を持つ砲弾の傾向を列挙していきます. 当然ながら, 抗力係数が小さいほど空気抵抗を受けづらいということになります. 豆知識程度に軽く読み流してください.
独巡
Mainz (Tier8): 独 150mm 砲だがツリーのそれより抗力係数が小さい.
ソ巡
第二ツリー180mm 砲: Tallinn, Mikoyan 搭載砲. 0.2778(AP).
220mm 砲, 305mm 砲: Kronshtadt は 0.2298(AP)というとりわけ小さな値.
伊巡
Tier8 以上 203mm 砲: Amalfi 以降が搭載する砲. 0.237(AP)という非常に小さな値.
仏巡
Henri IV 砲: AP が 0.2764 という小さな値だが, 初速が遅いのであまり実感ない.
日巡, 米巡, 英巡は並程度の抗力係数が設定されています. また, Tier5 以下にみられる WWI 期からそれ以前にかけての旧式砲は, 0.35 を上回る高い抗力係数が設定されていることも珍しくありません.
独 150mm 砲に見る抗力係数の実際のところ
同じ独巡 150mm といっても, ツリー巡(Königsberg, Nürnberg)が搭載する砲と, Mainz が搭載する砲は弾道が全く違います. 初速, 口径, 砲弾重量が共通しており差異はすべて抗力係数によるものなので, 抗力係数の影響をみる良い例です.
左図が着弾時間, 右図が垂直装甲に対する貫通力です. 着弾時間は 15km 地点で 0.8 秒程度の差になります.
参考までに, 距離ごとの偏差も示します.
パラメータの情報源
データマイニングで取得しますが, 下記のサイトで閲覧できるので心配無用です. このサイトは gamemodels3d のような装甲モデルや艦艇の射角などの情報はないものの, 砲弾データについては十分な情報が記載してあります.
World of Warships Ballistics Calculator 参照先: https://jcw780.github.io/wows_ballistics/
最後に
ここまで砲弾の空気抵抗について説明しましたが, 結局のところ現象としての着弾時間や偏差, 主砲貫通力が感覚的に理解できれば実戦には十分です. 内部パラメータなどの話をどんどん実践して応用するというよりも, さほど深刻に捉えず艦艇の性能を記憶に留めるための小話や豆知識と考えていただければと思います. (わらび餅)
もともと便所の落書きだったのになんか大作になっちまったなぁ、なんでやろなぁ(真顔)
本ブログを執筆するにあたり、わらび餅氏からは多大な助言を賜りました。厚く感謝を申し上げます。知を授けてくださった某14歳美少女ジャッキーチェン氏にも感謝の意を表します。他にもお世話になった方々が何人かいらっしゃいますが、この余白はそれを書くには狭すぎる。(じーふぉー)